ご案内
理屈上はうまくいくはずなのに、皆が心からやりたいとまったく思っていない変革はなかなか大きな成果をあげない。
すなわち、「これをしたい」とか「これをしよう」という価値観の裏づけがあってはじめて、決定・行動の適切性が保証される。
たとえば、「現場に判断の自主性を大幅に与える」ためのプロセス・モデルの変革は、価値の問題として中間管理職がそれを受け入れなければ、実際にはなかなか進まない。
あるいは、「モバイル・コンピューティングを利用したSFA(セールス・フォース・オートメーション)は、我が社の営業力強化のために意義あることだ」という論理も「(価値的)正当性」をつくるコンテキストの一種である。
年寄りには、モバイル・コンピューティングは生理的に嫌悪をいだかせるものかもしれない。
これは、現実的妥当性というより、当事者の価値観の問題といったほうがいい。
「(機構的)不可避性」とは、技術的制約や組織上の強制力によって避けられないという意識を指す。
妥当性も正当性も感じなくても、人は不可避性を感じればある行動をとることがある。
たとえば、「とにかく今使っている端末はもうサポート期限は切れたし、社内の情報システム部門の人数は少ないので、ERPパッケージ・ソフトの導入以外に道はない」(某薬品会社の情報システム部長の発言)は、技術的制約についての不可避性を表現したものだ。
あるいは、「社長がやれというのだからやらざるをえない」は、組織上の強制力を表現したものである。
コンテキストの主観性コンテキストは、妥当性も正当性も不可避性も主観的なものだ。
他の人間や他の組織の人間は必ずしも同じコンテキストをもっていない。
MRPに関していえば、「MRPのタイムバケット方式は、たとえば1週間のタイム・バケット単位で生産するので部品調達期間を入れた通算リードタイムが結果として長くなり、必ずしも効率的でない」というのは、MRPが非妥当なシステムであるという主張のコンテキストである。
(私はMRPについてこちらのコンテキストを支持する)「功績のある管理職の心理的抵抗を完全に無視するべきではない」は、別の正当性をつくるコンテキストである。
「社長がいくらやれと言っても良くないものは良くないのだからやらない」は、不可避性の別のコンテキストだ。
認知や決定や行動のほうからも「強化する」という矢印が「コンテキスト」に向かって出ている。
これは、逆にある認知が成立するとその前提になっているコンテキストが強化される。
また、ある決定・行動が行われると、その前提となっている想定がますます「価値あるものだ」と正当化される。
そういうメカニズムを表現したものだ。
つまり、人間は自分の持っている価値観や想定にあわせて現実を見、決定・行動をする。
同時に、その認知や決定・行動がそれなりにつじつまがあうと、(時にはおかしいところがあっても)前提となっていたコンテキストが「正しい」ものと、さらに思いこむ傾向がある。
極端な言い方をすると、「人間は、自分に都合のよい現実しか見ようとしない。
さらには、その偏った認知を自分の立場の合理性を証明するのに使う」もちろん、逆に、認知とコンテキストとのギャップがコンテキストの変化を促したり、行動の失敗が行動を支えていたコンテキストの変化を起こすということもある。
しかし、そのような「健全」なコンテキストの変化が必ずしも保証されないのが、(もちろん私も例外ではない)人間性の避けることのできない宿命であろう。
コンテキストは組織活動の中で、相互浸透して共有されていく。
もちろん、各人の持つコンテキストが完全に一致することはないが、日々の活動の中でコンテキストが暗黙あるいは明示的に交換されることで、組織の中にはその組織なりの「常識」が形成される。
その「常識」を支えるものとして、組織コンテキストというものを考えることができる。
別の言い方をするならば、組織の中には、公式に認められている枠組み、あるいは暗黙に認められている枠組みというのがあって、そういう枠組みがないと、そもそも組織は動かない。
組織コンテキストがないと、組織内の相手が何をするか予測がつかないから、組織が効率的に動かない。
あるいは、組織コンテキストが形成されないと、情報システムの仕様も合意できない。
コンテキストは組織によって大幅にあるいは微妙に異なるそこに、同じ情報技術を使っても、ある会社では効果があり、ある会社では効果が出ない理由がある。
あるいは、ある組織にうまく導入できたシステムが、別の組織では導入に失敗する原因ともなる組織コンテキストの違いが、効果の違い、あるいは副産物の違いをもたらすのである。
組織によっては、その情報技術が前提にしている。
コンテキストが全然成り立たないこともある。
そのような場合には、導入者が役に立つはずと思っていても、実際には全然使われないシステムを支えるはずのコンテキストが成り立たないので、そういうことが起こるのだ。
情報システムに関係したコンテキスト分析情報システムの利用者と提供者のギャップ情報システムに関係して、系統的にコンテキスト分析を行うために私が提案しているフレームワークがある。
この分析においては、情報システムは、認知一行動を媒介してコンテキストとつながりを持つという構図を想定している。
人々の情報システムヘの関わりは、「提供」と「利用」に大別しうる。
前者は、一般にベンダー、経営者、情報システム部門の関わりであり、後者は実際にそのシステムを業務に使う人達の情報システムとの関係である。
提供者と利用者とが異なるコンテキストを持って動いていることがある。
そして、この両者のコンテキストのギャップが情報システムの失敗や実用の遅れに結びつくことがあるのだ。
ここに着眼して、私は、「提供者」と「利用者」のコンテキストを対時させながら観察を行い、そのギャップを評価するというアプローチを提唱している。
これにおいて、人間aを情報システムの利用者、人間bを情報システムの提供者だとしよう。
利用者の行動(行動a)と提供者の行動(行動b)とがうまく噛み合わないと情報システムは有効に機能しえない。
行動のギャップの背後には、コンテキストのギャップがある。
情報システムの導入とは、時にこのギャップの縮小であったり、あるいは逆に拡大であったりする。
そこで、情報システムの企画・開発・導入・運用の時間的経過を辿りながら、利用者の認知行動と提供者の認知・行動をそれらの変化を加味しながら比較する。
また、認知行動から遡ってさらに利用者のコンテキストと提供者のコンテキストの比較を行えば、その企業においてその情報システムがどれほど適合しているかが分かる。
ただし、この分析は、システム導入時のギャップを「超えられないもの」とするのではない。
それは、「現状維持の反動」であるビジネス改革とは、コンテキストの変革なのだから、利用者も提供者も時間の経過の中でそのコンテキストを変えうると考えるべきだ。
しかし、どうしても超えられない大きなギャップが残った時には、その情報システムは失敗する。
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